2009年12月1日星期二

「そんな言い草があるか」 高島屋・伊勢丹に二股を謝罪

二人の恩人
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「なぜオレに黙って抜け駆けしたんだ。しかも、よりによってライバルの伊勢丹に!」。高島屋取締役の仲原利男さんは私に掴みかからんばかりの剣幕だった。私を高島屋に引っ張ってくれたのは仲原さんである。まさに飼い犬に手を噛まれたような心境だったろう。
私は懸命に訴えた。「『少女服』の絶対的な販売量が足りません。私は目先の利益が欲しいのではありません。ビジネスとして軌道に乗せたいのです。これは必 ず世の中の家族の役に立つ商品です」。だが、仲原さんの怒りは収まらない。周囲にいた部長クラスもハラハラしながら行先を見守っていた。
私はなおも説得を続けた。
「伊勢丹に売れば生産コストが下がり、高島屋にも利益になる。価格が抑えられればお客様も喜び、一石二鳥にも三鳥にもなるでしょう」
「でもウチとの契約があるだろう。それはどうなる」
「婦人服については高島屋の専属としてきちんと仕事をします。でも『少女服』は契約にふばらないで縛らないで下さい。自由にやらせてください」
その言葉を聞き終わらないうちに、仲原さんは目の前の灰皿をバーンと私の方に投げつけた。たばこの灰が机の上に舞い上がった。
「ふざけるな!そんな言い草があるか」
当然の言い分だった。私に非があるのは明らかだった。長く、重苦しい沈黙が流れた。もう可能性はない。黙って引き下がろう。これ以上、なるべきではない。世話になってきた仲原さんの恩を仇で返してはならない。こう悟った私は口を開いた。
「分かりました。伊勢丹には断りの連絡を入れます。今後は心を入れ替えて、仕事に尽くします。どうも申し訳ありませんでした」
仲原さんはホーッと長いため息を吐いた。ようやく落ち着いたようだった。
「繰り返すが、伊勢丹への販売はやめてくれ。だが、高島屋が全社を挙げて『少女服』を支援する。よろしく頼んだぞ」。親分肌の仲原さんにいつもの快活な笑顔が戻った。私は深々と頭を下げ、その場を退席した。
次は伊勢丹に謝罪に行かねばならない。面会を求めたのは伊勢丹取締役の山中鏆さんだ。それまで仕事上の取引はなかったが、テレビ番組を通じて知り合い、今 回の件でもエールを送ってくれていた。山中さんは後に伊勢丹専務を経て、松屋と東武百貨店の社長に就任し、「ミスター百貨店」の異名を取る人物だ。
この時、伊勢丹は「少女服」を発売するために、東京・青山で新設店舗の工事をかなり進めていた。
「このたびは誠に申し訳ありません。実は『少女服』を伊勢丹から売ることが出来なくなりました」
私はそれまで伏せていた経緯を正直に打ち明けた。
「そうだったのか。それは仲原さんが怒るのも最もな話だ。この話はやめにしようや」
山中さんはそう言って、話を引き取った。店舗の件では損害が出たに違いないが、一切口にしなかった。実にほろ苦い経験だった。仲原さんと山中さんーー。私は男気あふれる2人のリーダーの人情に触れた。今でも忘れられないビジネスの恩人である。


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単語

言い草 いいぐさ
よりによって
かからんばかり
剣幕 けんまく
懸命 けんめい
ハラハラ
仇 あだ
深々と しんしんと
ほろ苦い ほろにがい
男気 おとこぎ

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