2009年12月1日星期二

礼服のファスナー壊れる 美智子さま、ミスに触れぬ心遣い

痛恨の失敗
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1966年(昭和41年)私は36歳で皇太子妃、美智子さまの衣装デザイナーとなった。東宮御所に頻繁に伺いながら、公務に必要なスーツやドレスなどを季節や場所、目的にを考慮しながら仕上げていく。常に国民やメディアのの関心を集めていたからどの角度から見ても、完璧な服作りを目指す必要があった。
通常、2、3着を並行して仕上げるが、多いときには10着ほどを同時に手がけることもあった。特に外遊など外交に日程と重なると寝る間もないほどの忙しさだ。毎朝、東宮御所の仮縫い室に入り、持参したデザイン画についてのご意見をお聞きする。それから鏡の前で採寸、仮縫いなど切れ間ない作業が続いた。
美智子さまのあふれるような気品、やさしさ、美しさを引き立てる洋服に仕上げるには、数ミリ単位の繊細な仕上げが必要になる。国家のメンツも関わってくる。それだけに重責とやりがいがある仕事だった。私は斎戒沐浴し、全精力を仕事に注ぎ込んだ。
皇室デザイナーは76年までの10年続けたことになる。その間、思い出は尽きないが、冷や汗をかいたあの失敗談だけは絶対に忘れられない。まさに顔面が蒼白になるような痛恨のミスだった。
「お帰りなさいませ。外遊はいかがでいらっしゃいましたでしょうか」
あるとき、美智子さまが外遊からご帰国されると、私はすぐに東宮御所にあいさつに伺った。美智子さまは普段と変わらない様子で、にこやかにやさしくねぎらいの言葉をかけてくださった。だが、面会が終わって仮縫い室を出ると、私は女官さんから呼び止められた。その方は外遊に随行されたメンバーだった。
「芦田さん。誠に申し上げにくいことですが、ちょっと、お話が・・・・・・」
実は、訪問先の晩餐会にご出席される直前、イブニングドレスのファスナーが壊れるというアクシデントが起きたのだという。それは襟ぐりを大きく取った夜会用の正式礼服(ローブ・デコルテ)。大切な公式行事で身に着ける衣装だった。機転を利かせた女官さんがうまく補修してくれたので、何とか大事には至らずに済んだそうだ。
私は言葉を失い、体中から冷や汗が噴出した。完全に私のミスである。でも、先ほどお会いした美智子さまは普段通りで、そんなそぶりをまったくお見せにならなかった。「なんというお優しさなのか・・・・・・」。私はその心遣いに深い感銘を受けた。
美智子さまから頂いた心温まるプレゼントも忘れることが出来ない。針刺しにハサミ用サックーー。
ともにご自身のお手製である。白と黒の千鳥格子で、縁には可憐な白い花の刺繍が施されている。衣装デザイナーである私への思いやりと真心が込められた最高の贈り物だ。我が家の家宝として大切にしまってある。
美智子さまは私の娘など家族の近況も細かく覚えていらして、会うたびに何かと優しいお言葉をかけてくださる思いだ。皇室デザイナーだった10年間は、私のじんせいで最も充実した記事だった。デザイナーとして、大きな自信と信頼を与えて頂いた。


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単語

痛恨 つうこん
皇太子妃 こうたいしひ
美智子 みちこ
外遊 がいゆう
重責 じゅうせき
斎戒沐浴 さいかいもくよく
冷や汗 ひやあせ
蒼白 そうはく
労い ねぎらい
随行 ずいこう
機転 きてん
素振り そぶり
感銘 かんめい
心温まる こころあたたまる
千鳥 ちどり
格子 こうし

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